2014年末の「スタジオジブリ」制作部解体に伴い、「借りぐらしのアリエッティ」と「思い出のマーニー」の監督を務めた米林宏昌、そして「かぐや姫の物語」と「思い出のマーニー」のプロデューサーを務めた西村義明がジブリを退社、その後西村氏が「スタジオポノック」を設立。同スタジオの第一弾長編作品として送り出されたのが今回レビューする「メアリと魔女の花」です。
本作の制作に関わったアニメーターの8割が元ジブリということも含め、宮崎イズムを受け継ぐ人たちが新しく立ち上げたスタジオが一体どんな物語を作るのかということに世間の注目が集まっていましたが、その想いはボクも同じでした。なぜなら、今の自分の状況にシンパシーを感じさせる要素が多かったから。
ジブリ感を感じずにはいられない画や動き
最近のアニメ映画はどれも同じですが、豪華俳優陣を声優に招き、そこから話題性を生む感じはポノックも同じだった様で、主演のメアリに今最も勢いのある若手女優の一人である杉咲花、ヒーロー役にはアリエッティでの出演実績もある神木隆之介が起用されました。他にも天海祐希、大竹しのぶなど実力も知名度も十分の俳優が。
それはさておき、製作発表記者会見で西村プロデューサーが「ジブリの血を引いた作品にしたい」と話していた通り、テレビで流れる宣伝を見たとき、「あ、ジブリの新作出るんだ」と思ったその画(え)やキャラクターたちの動きはまさにジブリそのものでした。
しかし、紆余曲折あったにせよ、形式的には独立し、新しいスタジオを立ち上げたのだから、オリジナリティの追求はあって然りです。いや、ボク的に勝手にそう思っていました。なので、プロモーション動画がどうであれ、「ジブリっぽさ」を打ち破る仕上がりに期待する自分がいたのです。
劣化版ジブリ
期待とは裏腹に、映画を観終わっての感想は、「失敗ジブリ」、「ジブリもどき」、「劣化版ジブリ」といったものでした。
キャラの動きや画の雰囲気はまさにジブリなのです。それはもう、ジブリでした。でも、そこに独自性の演出があったのか、それとも力及ばずなのか、、そのどれもがジブリ作品になり損ねた感、今流行りな感じ(?)で言うなら、「ジブリ80%」みたいな感じだったのです。
製作者の意図、意思はわかりませんのでなんとも言えない部分もありますが、しかし、総合してなんだか、ジブリの陰に翻弄されているだけの映画に感じてしまって、もっと純粋に観ていた人はきっと楽しんでいたろうに、ボクはそこが気になりすぎてあまり楽しめませんでした。
キャラのレベルに如実な差
例えば、キャラクターデザイン。
ジブリ作品の登場人物って、人間でも化け物でもどれも”キャラ立ち”しているんですよね。どんな作品にも記憶に残るサブキャラがたくさんいて、人それぞれ、お気に入りがばらけるんです。
ジブリ作品は主人公よりもサブキャラの方が人気なこともありますね。
メアリ〜で唯一完成度に満足がいったのはメアリだけでした。
主人公のメアリ
あとは、、、なんて言うか、パチモン感いっぱいでした。ヒーローのピーターも、悪い(?)魔女もみんな。
ジブリクオリティーには2割ほど満たない他のキャラ達。描写力も、そもそものキャラデザ力も。
ポノックの猫(左)とジブリの猫(右二つ)を比べて、似てるのに、愛らしさと言うか、ニヤケテしまう感覚を覚えるのはどうしてもジブリのキャラだと言う事実。
「これがジブリ作品です」って言われると、「え、ジブリも落ちたね」って言われるだろう作画に対し、「ジブリっぽいね、これ」と必ず言われるであろう作画でもあるのがポノック作品の感覚。
豪華声優陣の罠
と言うことで、画がジブリっぽさ80%なのに、どこか足りていない中途半端な作画である中で、声優陣が誰もが声と、ご本人の顔をリンクできるような有名俳優起用があだになっているのではないかと思いました。
と言うのは、画に独創的な、そして魅力的な力が不足しているのに、声だけ「あ、あの人の声だ!」と思わせる”力”があるため、観ていながら、そのキャラをそのキャラとして捉えることができなくて、アニメ調に描かれた神木くんだったり、変な科学者の小日向さん、って感じで見てしまうのです。
杉咲花も声や喋り口調が完全に杉咲花だから、この作品の中では唯一成立したキャラデザながらも、どこか、”赤毛の杉咲花”と思って見てしまっている自分がいたのです。
まとめ
それまで尊敬し、師事してきたであろう宮崎監督の元から独立し、心機一転新しい何かを始めようとした(であろう)人たちの門出の一歩として期待した本作。
しかし、仮にこれがジブリの看板で世に出たなら「ジブリも落ちたね」と言われるだろうと感じ、そして、ジブリとは違う新たな存在として捉えるには「ジブリすぎる」と感じたと言うのが感想のまとめとなります。
他の人のレビューを見ていても、似た感想を持った方は多かったようですし、他にも、「ジブリの過去作品の寄せ集め」という声や、「宮崎の呪縛」というキーワードも飛び交っています。
シンプルに楽しめたという方も多い様に思いますが、ボクは残念ながらがっかり派だったので、まあ、次回作に期待と思いつつも、今作では残念感でもやっとした気持ちのまま終わってしましました。
なお、唯一良かったなと思う点は、神木きゅんがやっぱり声優としても実力十分だと思ったこと。
あ、もう一個あるかな。
実写版「進撃の巨人」で散々な主題歌を提供し、SEKAIじゃなくてバンドがOWARIなのかと思っていたSEKAI NO OWARIの主題歌がそこそこマッチしていたし、曲単体としても良かったと感じたことですかね。
「是非見るべき!」とオススメはなかなかできませんが、暇で、話題作が気になる人やジブリファンだという人で千円ちょっと捨てる覚悟があるという人(言い過ぎ?)はネタに観てみてもいいんじゃないかな?という感じです!