4年に一回の大イベント、アメリカ合衆国大統領選挙戦。
大統領の任期は4年2期の最大8年ですので今回は実質8年ぶりの大イベントとなりました。
事前の世論調査では概ね民主党候補のヒラリー・クリントンの優勢が伝えられるも、結果共和党候補の”暴言王”、”不動産王”のドナルド・トランプの勝利となり、”世紀の大波乱”と騒がれています。
数々の差別的で過激な発言を始めとする数々の言動が彼に対する反対勢力を生み、一部では暴動が起こるなど「反トランプ」勢力の活動が活発化しています。
なぜ事前予想に反してトランプが勝利したのか
ほとんどのメディアが事前予想としてクリントンの勝利を予想していました。
なのにどうしてトランプが勝ったのか?開票後多くのメディアがその”口実”を並べています。
一番よく耳にしたのが「隠れトランプ」という言葉。
暴言が目立つトランプを支持することを公言することで社会的な立場に傷がつくという考えからクリントン支持だと嘘をついていた人がたくさんいたのではないか?という論です。
同性愛者、有色人種、移民などのマイノリティーに対する差別的な発言は今のアメリカ社会ではマイナスな思想ですので大きな声で「トランプ派」とは言いにくいのはわかります。
ではなぜ実質トランプ派なのか?そこが問題です。ここについては後述します。
世論調査の方法に問題があったんだという論調も多く聞かれています。
電話での調査とします。
「あなたについて教えて下さい」「年齢、職業、会社名など」を聞いた上で、「あなたはどっち派?」と聞く場合、身分がわかってしまっている前提ですからトランプ派と言いにくい、と。逆に完全に匿名だったら、つまりいきなり「どっち派ですか?」と聞けば正直な声が聞けたでしょう。という話です。
そもそもの調査方法がおかしい。という話です。
「確かに」と思いますが、自分たちがその方法ありきの調査結果を元に大きな声で「クリントン優勢」と言い続けていただのですから、後付けの言い訳にしか聞こえません。
ともかく、いろんな意見が飛び出していますが、概ね”言い訳”にしか聞こえない話ばかりでした。
隠れトランプってなんで?
さて、”大番狂わせ”の根拠となったと言われる「隠れトランプ」のなぜ?です。
英語で”hidden Trump voters”と呼ばれている世間に対して公言していなかったトランプ派が多数存在したことが事前調査と実際の投票結果の誤差を生んだと言われていますが、彼らがなぜ事前にトランプ派と言えなかった/言わなかったのかという問題です。
これがアメリカ国民の本音!
アメリカ国民でもありながら外国人としての素質も持ち合わせるボクとして感じることは、率直に
恐いな!
ということです。
トランプの思想は簡単に言うと、「アメリカの白人万歳」みたいなものです。本当に根底からこう思っているかは別として、発言を見ていくとこういう風に取れます。
移民が邪魔、ゲイとかレズきもい、中東の人はテロリスト。。。
日本人についても80年代の貿易摩擦の様な話をします。「アメリカにはたくさんの日本車が走っているが、日本にアメリカ車は走っていない」と。在日米軍についても、「費用は日本が出せ」と。
正直、アメリカ国民で、しかもマジョリティー側の人にとってこれらの考えは「うん」となるのはわからないでもありません。
日本でも在日韓国人についてネガティブな印象を持っている人たちは心の底では「国に帰れ」と思っているでしょうし、宗教活動、信仰を理解できない人は信仰を持つ多くの人たちに対して邪魔だと思っているでしょう。ひと昔前かも知れませんが、街で白人を見ると「How are you?」と話しかけて面白がる人も結構いました。白人の全てが英語圏の人というわけではないのに、いわゆる”ガイジン”として面白がっていたのです。
だから、わかるんです。
ただ、現代アメリカ社会において同様の思想は「時代遅れ」とされており、時代は次のステップへと変わっているのだという認識の中多くの人が「同性愛もいいじゃない」とか「肌の色で差別とか、馬鹿げている」と表立ってはそう言っています。
なのに、なのにです、
心の底ではまだまだ、「アメリカが最強である」、「アメリカ人こそNo. 1」、「白人が一番優れた人種」などと思っている証拠なのではないか。これが恐いのです。
隣のあの人も、トランプ思想を持っているかも知れない恐怖
シアトルのあるワシントン州はずっと民主党基盤で、今回の選挙でもワシントン州では民主党=クリントンが勝っています。
勝ってはいますが、都市部からみて郊外地区ではトランプ票が勝っています。
その事実を噛みしめると、「隣のこの人・あの人ももしかしたら、、、」という気持ちになってしまいます。
大人気ドラマ、「24-Twente Four」(トゥウェンティー・フォー)では度々味方と思っていた人に裏切られ、結果、「Trust no one」という、「誰も信じてはいけない」というテーマが根付きました。
これはドラマで、ここまでの裏切りは現実ではなかなか遭遇しませんが、でも、「マイノリティー」にカテゴライズされるボクなんかは、例えば白人の友人が心の底ではボクのことも悪い風に思っているのではないか、差別的に見ているのではないか?という気持ちになってしまいます。
日本車がアメリカでたくさん走っているのにアメリカ車が日本にない?
それは日本車が優れていたり、日本車メーカーがアメリカに合った車造りに力をいれているからで、アメリカ車は逆パターンではなく日本向け戦略に手を抜いているからではないか?事実、北米市場向け車種を各日本メーカーはリリースしていてそれらは日本では売られていません。
アメリカで3割台のシェアである「iPhone」は、日本では5割以上のシェアです。国産のメーカーではなくアメリカのアップル社が作る機種が半分以上のシェアを占めているという例もあるため、日本人がアメリカ製品をアンチだったり、買わない、買いたくないという思いを持っているわけではないことがわかります。
恐いのは、ある一例を取り上げて、ネガティブな部分にスポットライトを当てて、批判し、差別、排除しようとする動きです。
まとめ:不本意な事実に目を逸らさない強さ
日本はまだまだ「世界基準」に届いていません。
アメリカほど多種多様な人が混ざっていないからなのか、戦後70年余りという期間がそこに至るにはまだ時間が足りないからなのか。理由はボクに名言はできませんが、世界規模の目線で物事を見るには足りないことが多いと感じます。
では、アメリカは進んでいるのか?ということですが、それも実は未知で、アメリカでの生活の中でやっぱり「アメリカ至上主義」を感じる機会はとても多く、とても仲良い人で、ボクのことを愛してくれていると感じる人ですらたまーに差別的な目線を感じてしまうことがあります。それはまだまだ根強く土に眠るアメリカがナンバーワンでなくてはならないという思想の影響だと感じています。
大統領はとてもパワフルな権力を手にします。ただ、一人の力で変えられることに限界はあるため、結果がこうなったことに嘆く人は多いものの、即「地獄が始まる」という認識はそこまで強くありません。
また、過激な発言はキャンペーン向けの戦略的なものであったという見方もあり、これからの展開は未知です。
それ以上の問題はやっぱり、その”過激発言”、”過激思想”を「YES」と迎え入れようとした票の数だと思いました。
「隠れトランプ」問題は夫婦間でも嘘をついていたという場合もあると聞きます。
ボクは多くの友人に「ヒラリーに入れるよね?ね?ね?」と言われてきましたが、そんな友人の中に実はトランプ派だった人がいるのかも知れないという心配。そんな友人が実は部分的にであったとしても、ボクのことを差別的に見ているかも知れないという不安。これが今回の選挙結果を受けての率直な気持ちでした。
日本育ちながら10年以上のアメリカ生活経験を経たアメリカ国籍のボクにとっては実に悩ましい結果となりました。
兎にも角にも、今後4年間、アメリカと世界に大きな変革がもたらされるかも知れない選挙結果に戸惑いながらも、成るように成る、むしろ、希望通りに進まない物事は人生では起こりうり、そことどう向き合うかこそが大事なんだと教訓的に教えられたのかも知れません。
不本意な事実としっかり向き合い、現実と戦う強さ。
それこそが現代社会を生きる上で大事なスキルのひとつではないかと思います。
今回の選挙結果が不本意だったという人も、この事実を受け入れ、現実と闘いましょう。